こらない

2005-01-20(木)

地下鉄の中で

友部正人さんの「友部正人より」の2005年1月16日の日記に、ブルックリン・ミュージアムからの帰りの地下鉄内でのできごと(友部さんはニューヨーク在住)。
妊娠している女性のホームレスと、それを取り囲む車内に乗り合わせた人々の描写。

友部正人より
http://www5a.biglobe.ne.jp/~hanao/001-tomobe/tomobemasatoyori/2005.html

1月16日(日) 地下鉄の中で
昨日のブルックリン・ミュージアムからの帰りにこんなことがありました。地下鉄の車内でホームレスの女性が支柱にもたれて泣いていました。外はマイナス1℃で寒いのに、半そでのワンピースしか着ていなくて、しかも妊娠しているようでした。黒人の二人の女性が驚いて話しかけました。「上着は持っていないの?」。「シェルターで盗まれたのよ。」とホームレスの女性。どうやら英語はあまり話せないようです。持っているプラカードにはなにやら字が書いてあるのですが、スペイン語なのか何語なのかぼくにはよくわかりません。「警察署には行ったの?きっとなんとかしてくれるわよ。」「でももうシェルターには戻りたくないの。」ただ事ならぬ雰囲気にみんな集まってきて、「旦那さんはいないの?」などと聞いたりしています。そしてその女性が手に持っていた小さな紙袋に1ドル札を入れていきます。ヒスパニック系の若者が近づいて、自分の着ていたジャンパーと帽子とマフラーを脱いで、女性に手渡そうとしました。だけど女性は受け取ろうとはしません。自分の首にまいているマフラーをさして、「外に出たらこれをはおるから」と言っています。若者はスペイン語で話かけていました。そして女性が言ったことを周囲の人たちに英語で説明していました。若者は女性の頭にニットの帽子をかぶせ、首にマフラーをまき、最後にジャンパーを着せてあげました。ユミはそれを見て「キリストさんだね。」と言いました。シェルターの代わりになるいい場所を知っているのか、白人の若い女性は住所と電話番号を書いたメモを渡していました。やがて地下鉄はタイムズスクエアの駅に着き、みんな降りて行きました。ジャンパーを女性にあげてしまったキリストさんは長袖のTシャツ一枚で降りていきました。外はとても寒いのに。女性は空いている席にすわろうとはせずに、また支柱にもたれて泣き始めました。夜通し走っている地下鉄ですから、そのまま乗っていれば凍えることはないでしょう。だけどもし急に産気づいたらどうするのでしょう。それぐらい大きなお腹でした。そのまま72丁目の駅でぼくたちも地下鉄を下りました。

友部正人

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